AIによる変革


ITは生産性の向上や付加価値の創造を行ってきましたが、今まさにITはビジネスそのものを牽引するもの、または、ビジネスの仕方を変えるものとして、変化を続けています。そこにはハード/ネットワーク面、ソフトウェア面といった多種多様な技術の革新があり、それらを活用した「ビジネスエコシステムの構築」というキーワードが浮かび上がってきます。
新たなビジネスエコシステムの構築を考える時、新たな技術の中でも「AI(人工知能)」を横に置いてビジョンを描くことは難しくなりました。

AIは単なる生産性向上のツールではありません。人間の生活そのものや考え方、世界観さえ変えるものとしてAIは進化し、世の中に浸透しつつあるのです。本頁では、AIの現在地についてお話します。

AIとは


現時点でのAIの捉え方は様々です。従来のITのように生産性の向上をテーマとした場合には、人間に代わる労働力としてのAIという観点があります。
人間よりも速度や正確さ、体力や記憶に長けた存在としてのAIといった活躍が期待できます。
これは、人間が出来ることをより高度に実現できる、と言い代えることも出来ます。
我が国における労働人口減少の問題や、働き方改革、また働き方のグローバル化などを考えた時にも、AIとの共存は大きなテーマです。

同時に人間を超えたAIという側面もあります。それは、人間では認知できないものを、AIが認知し思考する、というものです。
こちらは我々の生活そのものを変える可能性があります。AIが思考において人類の知の総量を超えると言われるシンギュラリティ(技術的特異点)は、その最たるものであり、産業革命など歴史上様々な時点の技術革新により生活や世界にもたらされた変化とは桁違いの変化が訪れると言われています。
シンギュラリティ以前であれ、人間にできないものを認知して判断するAIは、活躍の範囲を見いだし広がっていくものと思われます。

Health and Safety Management in the Aspects of Singularity and Human Factor – Scientific Figure on ResearchGate. Available from: https://www.researchgate.net/figure/Shows-the-graph-of-reaching-the-singularity-point-Kurzweil-Sigularity-wwwpicswecom_fig1_335296784 [accessed 17 Aug, 2020]


時代の流れに即して換言すれば、(1)人間の機械的知的活動をサポートするAIから、(2)統計的なデータを解析し人間に代わり解答を導き出すAIへ、(3)そして人間の脳のように知覚し解答するAIへと進化をしています。
現在は(2)から(3)への過渡期です。AI研究そのものは(3)に移行していますが、実用化においては(2)から(3)への移行が進んでいる時期にあたります。
データサイエンスを専門とする人間の手によって抽出されたデータや設計を元に、より多くの判断を重ねて最適解を導き出す「機械学習」と呼ばれる段階から、「ディープラーニング」と呼ばれる、シナプスとニューロンといった人間の脳を模した形での学習と判断へと進んでいます。(このように話すと、ディープラーニングが人工知能としてより進化した形に聞こえますが、事実そういう側面があると同時に、実用的にはそれぞれ得意とする分野が異なり、使い分けられています)


AIの実用化について


以降研究が進み、およそ2015年以降に興ったAIブームから、様々なメーカーやベンチャー企業が、研究と同時に社会に向けたAI実用化の試みを続け、現在は実用化が加速し始めました。
レコメンデーションなどのマーケティング分野、取引における不正検知、またコールセンター等でも利用される自然言語解析、画像解析を伴う各種認証といった分野では、AIが既に実績を残しており、またFintechの一部ではロボアドバイスといった利用も進みつつあります。
ただ、AIが持つ可能性からすると、これら実用化されているものはまだごく一部にすぎず、自動運転や農業への適用など、試用段階にあるものから、医療や教育といった分野での活用もそう遠くはないと思われます。

AIの進化は、理論だけで遂げられるものではありません。データと処理リソースの両方の進化が伴って、初めてAIは実用に足るものとなります。
データについては、IoTや5Gといった技術が、AIの活躍の場をより広大にします。AIにとってデータの質と量は、燃料、あるいは栄養といったものであり、より高度な判断を可能にします。
それらを処理するリソース、すなわち高速にデータを処理し得るハードウェアの進化は、新たなAIの進化を呼び覚ますものとして考えられています。その一つとして考えられ、現在も世界中で研究が進められているのが量子コンピューターです。
Google社が中規模の量子コンピューターをクラウド上で公開し、従来型コンピューターを遥かに超える計算能力を実現しましたが、まだ研究段階に留まります。
現在のコンピューターとは比べ物にならない処理性能を持つ量子コンピューターの登場まで20年とも言われていますが、そのタイミングはAIの実用化において決定的な変化が起き、そしてその先には、シンギュラリティが待っているのかもしれません。

AIエンジニアリング


AIをどのように活用し課題を解決するか、新たな付加価値を生むか、それがこれからのテーマになります。AIを活用する、と一言で言ってもその方法は高度であり複雑です。AIそのものの選定はもちろんのこと、環境の構築や、AIに与えるデータを準備する仕組みや、データそのものを洗練するといった作業も必要です。
複数のシステムやデータを結合し、AIに最大限の効果を求めなければ意味がありません。そのためには、データサイエンスを専門とした技術者も、ミドルウェア群の構築などインフラ環境を用意できる技術者も必要になるでしょう。
もちろんAIの利用そのものが目的ではなく、AIの活用が目的ですから、ユーザーの目的や求める結果というものについて、十分に聞き取り、実現までのシナリオを管理することのできる技術者も必要になります。
AIそのものを技術研究開発していくリサーチ分野、AIの実運用のため導入を進めるエンジニアリング分野、AIのシーンへの適用を進めるビジネス分野、それぞれが求められており、一人のエンジニアであっても、これら三つの分野を(それぞれの強みは異なるとしても)バランスを以って保有している必要があります。
今後、DX(デジタルトランスフォーメーション)が進み、ITによるビジネスや組織の運営方法が変わるにつれ、多くのユーザー自身がシステムやAIというものについて考え、運用する時代になるでしょう。IT企業に任せてしまうのではなく、自分たちでAIを用いて成果を出すことを考えなければなりません。その時、AIの専門家たるエンジニアは、その課題に寄り添い、実現のための提案役であったり、相談役、実行役でもあるという役割を担います。
進化し続ける最新のAIを武器にして新たなソリューションを実現し続けること、新たな時代の価値観や世界観を生み出すことが、AIエンジニアには求められます。


自由な発想を未来へ